2018年1月3日

パレスチナ問題関係の用語・表現③「土地・施設」

この記事では、パレスチナ問題に関係する「土地・施設」の名称をアラビア語(と英語)でどう言うのか確認します。具体的には、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区、エルサレム、神殿の丘、アクサー・モスク、岩のドーム、嘆きの壁、聖墳墓教会、フルヴァ・シナゴーグ、分離壁、入植地、検問所を扱います。


固有名詞が多いですが、パレスチナ問題を語るうえでどれも欠かせない用語です。それでは見ていきます。

※筆者がメモ的な解説を加えることはありますが、この記事の目的は用語の確認です。歴史的・現代的意義やパレスチナ問題における争点等はほかを参照してください。画像はすべてwikipediaから引っ張りました。


اَلضِّفَة الغَرْبِيَّة
ヨルダン川西岸地区
West Bank

ضِفَّة とは「川岸」という意味です。アラビア語と英語は完全に対応しています。日本語でも共通認識がある人同士では「西岸」で十分通じますね。


قِطَاع غَزَّة
ガザ地区
Gaza Strip

قطاع には「土地・領土の(切り離された)一部分」というニュアンスがあります。ガザが西岸から離れたところにポツンと位置していることに由来しているのでしょうか。知らなければ「地区」は منطقة などと訳してしまいそうなので注意です。英語でもstripというやや特殊な単語が用いられています。


اَلقُدْس
エルサレム
Jerusalem

「東エルサレム」はそのまま القدس الشرقية とすればOKです。


جَبَل الهَيْكَلِ
神殿の丘
Temple Mount/Haram al-Sharif

جبل الهيكل(神殿の丘)の呼称はアラビア語圏ではあまり使われません。英語・日本語圏では、アクサー・モスクや岩のドームを含む壁に囲まれた空間全体を指して「Temple Mount(神殿の丘)」と言いますが、アラビア語ではこれと同じ意味で المسجد الاقصى (アクサー・モスク)と言うことが多いです。なぜなら、「Temple Mount(神殿の丘)」という呼称自体がユダヤ教に寄って立っているからです。英語圏ではこの事情に考慮してか、Temple MountとHaram al-Sharifを併記することがありますが、アラビア語では حرم الشريف も実はそんなに使われていません。



المَسْجِد الأَقْصَى
アクサー・モスク
Al-Aqsa Mosque

これは、モスクそのもの及び、上で説明したとおり英語圏・日本語圏で言うところの「Temple Mount(神殿の丘)」の意味の両方で使われます。المسجد الاقصى とGoogle検索すると岩のドームの写真がたくさんヒットするのはこのためです。写真の、岩のドームと比べると地味なドームのところが狭義のアクサー・モスクです。



قُبَّة الصَّخْرَةِ
岩のドーム
Dome of the rock

「聖なる岩」を取り囲むように建てられた施設です。この岩からムハンマドが昇天(مِعْراج)したとされています。قُبَّة はドームという意味で、岩のドームに限らずモスクや教会建築によくみられるドームはすべて قبة です。



حائِط البُراق / حائط المَبْكَى / الحائط الغَرْبي
嘆きの壁
Wailing Wall / Western Wall

エルサレム神殿の遺構とされるこの壁で嘆くのは当然ユダヤ教徒ですから、حائط المبكى (嘆きの壁)という呼称もムスリムが多数派を占めるアラビア語圏ではあまり使われません。代わりに使われるのが حائط البراق(ブラークの壁) です。この名称は、ムハンマドが一夜のうちにメッカからエルサレムに移動(إِسْراء)し、昇天(مِعْراج)する際に乗った天馬ブラーク(البراق)をこの壁につないでいたという話に由来します。الحائط الغربي(西の壁)という呼び方もあります。



كَنِيسَة القِيَامَة
聖墳墓教会
Church of the Holy Sepulchre

エルサレム旧市街キリスト教徒地区の、キリストが磔にされたとされる場所に建っている教会で、キリスト教徒にとって最も重要な施設のうちの一つです。قِيامة には、「復活/蘇生」という意味があり、言うまでもなくキリストの復活に由来します。この教会の鍵はムスリムが管理していることで有名です。



كَنِيس الخَرَابِ
フルヴァ・シナゴーグ
Hurva Synagogue

エルサレム旧市街ユダヤ教徒地区を代表するシナゴーグです。シナゴーグは كَنيس-كُنُس で、教会(كنيسة-كنائس)と紛らわしいので注意です。خراب は「瓦礫/廃墟」などといった意味で、18世紀~19世紀にかけて、長期間このシナゴーグが廃墟のまま手をつけられなかったことに由来します。2010年に修繕を終え再オープンしています。



(جِدَار الفَصْلِ (العُنْصُرِيّ
分離壁
separation barrier / security barrier (fence)

سور ではないので注意です。سور も جدار も日本語に訳すと「壁」となり、アラビア語においてもある程度の互換性はありますが、ニュアンスの違いがあります。سور はそれによって囲まれたものを保護するためのものですが、جدار は二つのものを仕切り隔て行き来を妨げるためのものです。ベルリンの壁は普通 جدار برلين といいますが、万里の長城は سور الصين العظيم です。分離壁はイスラエルにとっては سور なのかもしれません。
عنصري(人種差別的な)を付けると壁の存在を糾弾するニュアンスを帯び、アラビア語メディアは好んで使います。



مُسْتَوْطَنَة -ات
入植地
settlement-s

10形動詞 اِسْتَوْطَنَ-يَسْتَوْطِنُ(~に定住する、入植する/to settle)からきています。「入植者(settler)」は مُسْتَوْطِن-ون です。


مَعْبَر - مَعَابِرُ
検問所
checkpoint-s

معبر は「通過するところ」という意味です。語頭に م がつく場所を表す名詞の典型例と言えるでしょう(その他の例として مَكْتَب-مَكاتِبُ، مَنْزِل-مَنازِلُ など)。写真はエジプトとガザ地区をつなぐラファハ検問所(معبر رفح)です。