アラビア語には、「死ぬ」ことを意味する動詞・表現が多くあり、文脈ごとに使い分けられています。日本語の「死ぬ」と「逝去する」のニュアンスの違いから容易に想像できるとおり、これらの動詞・表現のニュアンスの違いを理解し、使い分けができることは非常に重要です。
本記事では、アラビア語における「死ぬ」系動詞・表現のニュアンスや使われる文脈の違いをみていきます。
文学的な表現や比喩表現を含めると無数にあるため、ここでは会話やメディアでよく使われるものに限定します。見出しにつけた訳語は一例であり、ほかの訳し方が可能な場合もあります。
●基本の2動詞「مات」と「تُوُفِّيَ」
まずはこの2つさえ押さえておけば、会話で困ることはほぼありません。
مات - يَمُوت
to die
死ぬ
最も一般的な「死ぬ」を意味する動詞です。日本語の「死ぬ」と同じく直接的な表現であり、実際に人が死んだ場合に使うと失礼にあたります。
【用例】
!لا أُريدُ أَنْ أَموتَ
死にたくない!
لَقَدْ ماتَ اللهُ
神は死んだ(ニーチェ)
تُوُفِّيَ - يُتَوَفَّى
to die, to pass away
亡くなる、死去する、逝去する、他界する、崩御する
√و ف يの5型動詞 تَوَفَّى - يَتَوَفَّى の受身形です。なぜ受身なのか。それは、تَوَفَّى - يَتَوَفَّى が「(人)を(天国に)召す」という意味の動詞だからです。人を主語にして「死んだ(=神に召された)」と言うためには、受身にしなければならない、というわけです。死者に敬意を表す表現であり、汎用性が高いです。
メディアでは、有名人が病死した場合によく使われます。逆に、事件性がある場合にはあまり用いられず、代わりに後述する3つの表現がよく用いられます。
アラビア語には、国王が死んだ場合に使わなければならない特別な表現はありませんので、「崩御する」の意味でも使うことができます。
名詞 وَقاة (死)も必ず覚えておきたい単語です。
【用例】
※アラビア語には、人の年齢を表す言い方にも様々ありますが、عَنْ عُمْرٍ يُناهِزُ...عام は、亡くなった人の年齢を表す際に使われます。「享年〇〇歳」と訳してもOKです。
تُوُفِّيَ الْعَاهِلُ السَّعوديُّ الْمَلِكُ عبد الله فَجْرَ الْجُمْعَةِ وَتَمَّتْ مُبَايَعَةُ وَلِيِّ عَهْدِهِ الْأَمير سلمان مَلِكًا
アブドゥッラー・サウジアラビア国王が金曜日未明、崩御し、皇太子であるサルマーン王子が即位した。(元ネタ)
●メディアで事件性がある場合によく用いられる3表現
以下の3表現は、メディアで事件性がある人の死についてよく用いられます。事実を淡々と伝えるための表現であり、悲しみや死者を悼む気持ちを表したいときには適しません(その場合はتُوُفِّيَを使いましょう)。
قُتِلَ - يُقْتَل
to be killed
殺害される、死亡する
قَتَلَ - يَقْتُلُ(殺す)の受身形です。メディアでは、もっぱら事件や災害などで死者がでた場合に使われます。使用する際には、人でも災害でもいいのでその人を死に追いやった明確な主体が必要です。
【用例】
قُتِلَ ثَلَاثَةُ أَشْخَاصٍ عَلَى الْأَقَلِّ وَأُصِيبَ الْعَشَرَاتُ بَعْدَ أَنْ ضَرَبَ زِلْزَالٌ بَلَغَتْ قُوَّتُهُ 5.9 دَرَجَاتٍ عَلَى مِقْيَاسِ ريختر مَدِينَةَ أوساكا
大阪を襲ったマグニチュード5.9の地震で少なくとも3人死亡し、数十人が負傷した。(元ネタ)
لَقِيَ مَصْرَعَهُ
to die, to be killed
殺害される、死亡する
مَصْرَعは動詞 صَرَعَ - يَصْرَعُ((人)を地面に投げ倒す)の動名詞ないし場所名詞です。「地面に投げ倒す」から「殺害」や「死に場所」という意味が派生します。自らのمصرعに「遭遇する(لقي)」ので「死ぬ」という意味になります。
メディアでは、قُتِلَ - يُقْتَلと同じく、事件・災害などで人が死んだ場合によく使われます。
مصرع は、実際に人が死んだ状況や場面を具体的にイメージさせる単語です。ゆえに、不慮の事故とは特に相性が良い表現です。
【用例】
لَقِيَ حَتْفَهُ
to die, to be killed
死ぬ、死亡する
حَتْفはمَوْتの同義語で、ずばり「死」という意味です。用法はلَقِيَ مَصْرَعَهُとほぼ同じです。
【用例】
قَضَى نَحْبَه
to die, to lose one's life
死亡する、命を落とす、殉職する
クルアーン33章 (سورة الأحزاب)の23節(الآية 23)において、神のために死ぬ(=殉教する)という意味で登場する表現です。なぜクルアーンにおいてこの表現がその意味になるのかは、クルアーンの解釈(タフスィール)という筆者の専門外の分野に踏み込む必要があるため、ここでは割愛します。
結論として筆者は、現代アラビア語の学習者は、この表現に関しては丸覚えするしかないと考えています。
現代アラビア語版「Al-Munjid」によれば、
名詞 نَحَب には、مُدَّة(期間)や وَقْت(時間)という意味があります。
また、قضى نحبه という表現を構成する動詞 قَضَى に関しては、اِسْتَخْدَم لغَرَضٍ ما (何らかの目的のために~を使う)という意味が示されています(※قضى はほかにも様々な意味をもつ重要単語です)。「期間・時間を何かの目的のために使う」が「死ぬ」という意味になるためには、少し飛躍が必要と思われます。
قضى نحبه は格式高い表現です。何らかの高尚な目的を達成する途上や、任務中などに死亡(殉職)した人について使うとしっくりきます。ここぞというときに使えるとカッコいいです。
さらにメディアでは、事件・災害などで亡くなった人に関しても、上述した3つの表現と同じように使われることがあります。
【用例】
عَلِيّ الْحَبِيب رَجْلُ الْأَمْنِ الَّذِي قَضَى نَحْبَهُ دِفَاعًا عَنِ الْوَطَنِ
国を守るため殉職した治安隊員 アリー・アル=ハビーブさん(元ネタ)
(余談ですが、サウジ系のAl-Sharq Al-Awsat紙に、テロ攻撃で亡くなったサウジの治安隊員個人を労い讃える記事がでているのは興味深いですね。)
وافَتْهُ الْمَنِيَّةُ
to pass away
亡くなる、死去する、逝去する、他界する、崩御する、臨終を迎える、息を引き取る
مَنِيَّة は、مَوْت 及び وَفاة の類義語です。
وَافَى は、√و ف ي の3型動詞で、現代アラビア語版「Al-Munjid」によれば、أتى، جاء (来る)や وَصَلَ إِلى (~に到着する)という意味を持っています。
وافته المنية で、直訳すれば「彼に死が来た、到着した」という意味になります。
死者に敬意を表す表現であり、基本の تَوَفَّى よりもさらに丁寧で凝った言い回しです。事件性のある死に関してはあまり使われません。
この表現は、「いつどこでどのように」亡くなったのかという情報とセットで使用されることが非常に多いです。そのため、「臨終を迎える」「息を引き取る」という訳も可能かと思います。
【用例】
本記事では、アラビア語における「死ぬ」系動詞・表現のニュアンスや使われる文脈の違いをみていきます。
文学的な表現や比喩表現を含めると無数にあるため、ここでは会話やメディアでよく使われるものに限定します。見出しにつけた訳語は一例であり、ほかの訳し方が可能な場合もあります。
●基本の2動詞「مات」と「تُوُفِّيَ」
まずはこの2つさえ押さえておけば、会話で困ることはほぼありません。
مات - يَمُوت
to die
死ぬ
最も一般的な「死ぬ」を意味する動詞です。日本語の「死ぬ」と同じく直接的な表現であり、実際に人が死んだ場合に使うと失礼にあたります。
【用例】
!لا أُريدُ أَنْ أَموتَ
死にたくない!
لَقَدْ ماتَ اللهُ
神は死んだ(ニーチェ)
تُوُفِّيَ - يُتَوَفَّى
to die, to pass away
亡くなる、死去する、逝去する、他界する、崩御する
√و ف يの5型動詞 تَوَفَّى - يَتَوَفَّى の受身形です。なぜ受身なのか。それは、تَوَفَّى - يَتَوَفَّى が「(人)を(天国に)召す」という意味の動詞だからです。人を主語にして「死んだ(=神に召された)」と言うためには、受身にしなければならない、というわけです。死者に敬意を表す表現であり、汎用性が高いです。
メディアでは、有名人が病死した場合によく使われます。逆に、事件性がある場合にはあまり用いられず、代わりに後述する3つの表現がよく用いられます。
アラビア語には、国王が死んだ場合に使わなければならない特別な表現はありませんので、「崩御する」の意味でも使うことができます。
名詞 وَقاة (死)も必ず覚えておきたい単語です。
【用例】
تُوُفِّيَ الرَّئِيسُ الْأَمْرِيكِيُّ السَّابِقُ جورج بوش الأب عَنْ عُمْرٍ يُنَاهِزُ 94 عامًا
تُوُفِّيَ الْعَاهِلُ السَّعوديُّ الْمَلِكُ عبد الله فَجْرَ الْجُمْعَةِ وَتَمَّتْ مُبَايَعَةُ وَلِيِّ عَهْدِهِ الْأَمير سلمان مَلِكًا
アブドゥッラー・サウジアラビア国王が金曜日未明、崩御し、皇太子であるサルマーン王子が即位した。(元ネタ)
●メディアで事件性がある場合によく用いられる3表現
以下の3表現は、メディアで事件性がある人の死についてよく用いられます。事実を淡々と伝えるための表現であり、悲しみや死者を悼む気持ちを表したいときには適しません(その場合はتُوُفِّيَを使いましょう)。
قُتِلَ - يُقْتَل
to be killed
殺害される、死亡する
قَتَلَ - يَقْتُلُ(殺す)の受身形です。メディアでは、もっぱら事件や災害などで死者がでた場合に使われます。使用する際には、人でも災害でもいいのでその人を死に追いやった明確な主体が必要です。
【用例】
ُقُتِلَ 20 شَخْصًا مُعْظَمُهُمْ إيطاليون ويابانيون فِي هُجُومٍ شَنَّه مُسَلَّحُونَ مُتَشَدِّدُونَ عَلَى مَطْعَمٍ فِي دكا
ダッカのレストレランで武装した過激派が起こした攻撃で、20人が死亡した。その多くはイタリア人と日本人であった。(元ネタ)
大阪を襲ったマグニチュード5.9の地震で少なくとも3人死亡し、数十人が負傷した。(元ネタ)
لَقِيَ مَصْرَعَهُ
to die, to be killed
殺害される、死亡する
مَصْرَعは動詞 صَرَعَ - يَصْرَعُ((人)を地面に投げ倒す)の動名詞ないし場所名詞です。「地面に投げ倒す」から「殺害」や「死に場所」という意味が派生します。自らのمصرعに「遭遇する(لقي)」ので「死ぬ」という意味になります。
メディアでは、قُتِلَ - يُقْتَلと同じく、事件・災害などで人が死んだ場合によく使われます。
مصرع は、実際に人が死んだ状況や場面を具体的にイメージさせる単語です。ゆえに、不慮の事故とは特に相性が良い表現です。
【用例】
لَقِيَتْ سَائِحَةٌ فَرَنْسِيَّةٌ مَصْرَعَهَا الْجُمْعَةَ إِثْرَ سُقُوطِهَا مِنْ فَوْقِ مُرْتَفَعٍ صَخْرِيٍّ فِي مَدِينَةِ الْبِتْرَاء الْأَثَرِيَّةِ
フランス人女性観光客が、金曜日、ペトラ遺跡で岩場の高所から落下し死亡した。(元ネタ)
※このように、لَقِيَ مَصْرَعَهُ が使用される場合は、亡くなったときの状況が詳しく説明されることが多いです。この文の場合、لقيت مصرعها の代わりにقُتِلَتْを使うと違和感があります(不慮の事故なので、彼女を死に追いやった明確な主体が存在しない)。
フランス人女性観光客が、金曜日、ペトラ遺跡で岩場の高所から落下し死亡した。(元ネタ)
※このように、لَقِيَ مَصْرَعَهُ が使用される場合は、亡くなったときの状況が詳しく説明されることが多いです。この文の場合、لقيت مصرعها の代わりにقُتِلَتْを使うと違和感があります(不慮の事故なので、彼女を死に追いやった明確な主体が存在しない)。
لَقِيَ حَتْفَهُ
to die, to be killed
死ぬ、死亡する
حَتْفはمَوْتの同義語で、ずばり「死」という意味です。用法はلَقِيَ مَصْرَعَهُとほぼ同じです。
【用例】
قَالَتِ الْمُفَوَّضِيَّةُ السَّامِيَةُ لِلْأُمَمِ الْمُتَّحِدَةِ لِشُؤُونِ اللَّاجِئِينَ، الْيَوْمَ (الْأَرْبِعَاء)، إِنَّ مَا يُقَدَّرُ بِنَحْوِ 300 مُهَاجِرٍ لَقُوا حَتْفَهُمْ عَلَى الْأَرْجَحِ بَعْدَ مُحَاوَلَةِ الْعُبُورِ الْبَحْرِيِّ مِنْ لِيبِيَا إِلَى إِيطَالِيَا وَسْطَ أَجْوَاءٍ عَاصِفَةٍ
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今日(水曜日)、およそ300人の移民が、嵐のなかリビアからイタリアへ向け海を渡る途上で死亡したと見られると発表した。
●+αで覚えておきたい2表現
●+αで覚えておきたい2表現
قَضَى نَحْبَه
to die, to lose one's life
死亡する、命を落とす、殉職する
クルアーン33章 (سورة الأحزاب)の23節(الآية 23)において、神のために死ぬ(=殉教する)という意味で登場する表現です。なぜクルアーンにおいてこの表現がその意味になるのかは、クルアーンの解釈(タフスィール)という筆者の専門外の分野に踏み込む必要があるため、ここでは割愛します。
結論として筆者は、現代アラビア語の学習者は、この表現に関しては丸覚えするしかないと考えています。
現代アラビア語版「Al-Munjid」によれば、
名詞 نَحَب には、مُدَّة(期間)や وَقْت(時間)という意味があります。
また、قضى نحبه という表現を構成する動詞 قَضَى に関しては、اِسْتَخْدَم لغَرَضٍ ما (何らかの目的のために~を使う)という意味が示されています(※قضى はほかにも様々な意味をもつ重要単語です)。「期間・時間を何かの目的のために使う」が「死ぬ」という意味になるためには、少し飛躍が必要と思われます。
قضى نحبه は格式高い表現です。何らかの高尚な目的を達成する途上や、任務中などに死亡(殉職)した人について使うとしっくりきます。ここぞというときに使えるとカッコいいです。
さらにメディアでは、事件・災害などで亡くなった人に関しても、上述した3つの表現と同じように使われることがあります。
【用例】
عَلِيّ الْحَبِيب رَجْلُ الْأَمْنِ الَّذِي قَضَى نَحْبَهُ دِفَاعًا عَنِ الْوَطَنِ
国を守るため殉職した治安隊員 アリー・アル=ハビーブさん(元ネタ)
(余談ですが、サウジ系のAl-Sharq Al-Awsat紙に、テロ攻撃で亡くなったサウジの治安隊員個人を労い讃える記事がでているのは興味深いですね。)
أَكَّدَ مُتَحَدِّثٌ بِاسْمِ وِزَارَةِ الدَّاخِلِيَّةِ فِي النيجر لِوَكَالَةِ الْأَنْبَاءِ الْفَرَنْسِيَّةِ أَنَّ 55 شَخْصًا قَضَوْا نَحْبَهُمْ بَعْدَ انْفِجَارِ شَاحِنَةِ صِهْرِيجٍ تَنْقُلُ وَقُودًا
وافَتْهُ الْمَنِيَّةُ
to pass away
亡くなる、死去する、逝去する、他界する、崩御する、臨終を迎える、息を引き取る
مَنِيَّة は、مَوْت 及び وَفاة の類義語です。
وَافَى は、√و ف ي の3型動詞で、現代アラビア語版「Al-Munjid」によれば、أتى، جاء (来る)や وَصَلَ إِلى (~に到着する)という意味を持っています。
وافته المنية で、直訳すれば「彼に死が来た、到着した」という意味になります。
死者に敬意を表す表現であり、基本の تَوَفَّى よりもさらに丁寧で凝った言い回しです。事件性のある死に関してはあまり使われません。
この表現は、「いつどこでどのように」亡くなったのかという情報とセットで使用されることが非常に多いです。そのため、「臨終を迎える」「息を引き取る」という訳も可能かと思います。
【用例】
نَعَتْ حَرَكَةُ الْمُقَاوَمَةِ الْإِسْلَامِيَّةِ (حَمَاس) خَطِيبَ الْمَسْجِدِ الْأَقْصَى سَابِقًا الشَّيْخُ محمد صيام، الَّذِي وَافَتْهُ الْمَنِيَّةُ الْجُمْعَةَ فِي أَحَدِ مُسْتَشْفَيَاتِ الْعَاصِمَةِ السُّودَانِيَّةِ الخرطوم إْثْرَ إِصَابَتِهِ بِجُلْطَةٍ دِمَاغِيَّةٍ