このシリーズでは、パレスチナ問題に関係する用語や表現をまとめていきます。
パレスチナ問題
the Israeli-Palestinian conflict / the question of Palestine
イダーファを使い قضية فلسطينَ としても間違いではなく、用例もあります(Google検索68万ヒット/記事執筆時点)。しかし、القَضِيَّة الفِلَسْطينيَّة と表記することが多いようです(Google検索760万ヒット/記事執筆時点)。
قَضِيَّة-قَضَايَا は、「問題」の訳語としてすぐに頭に浮かぶ単語ではありませんので、覚えておく必要があります。
「問題」と訳すことができるより一般的な単語としては、 مُشْكِلَة-مَشاكِلُ や مَسْأَلَة-مَسائِلُ などがありますが、パレスチナ問題の「問題」の意味で使われるのは、ほぼ例外なく قضية です。なぜかというと、イスラエルとパレスチナの二者間における「法的な紛争」としての側面を強調したいからだと考えられます。قضية の語根√ق ض يの1形動詞 قضى-يقضي には、「(法的な)裁定を下す」という意味があります。
筆者が愛用するアラビア語―アラビア語辞典「アル=マウリド・アル=アラビー(المورد العربي)」(初版2016年)から、قضية の定義を以下に引用しておきます(該当項目から最初の定義だけを抜粋)。
【قضية の定義】
مَسْأَلَةٌ مُتَنَازَعَةٌ عَلَيْهَا أَمَامَ القَضَاءِ لِلْفَصْلِ فِيهَا
判決のため司法に委ねられている係争中の問題
「問題」よりも「訴訟」の意味に近いことが分かります。
法的な紛争というのは、裁判に持ち込まれ、時間がかかっても最終的には公正な裁定が下るものと想定されています。
筆者は、القَضِيَّة الفِلَسْطِينِيَّة という言葉遣いから、「公正な判断さえなされれば、占領された土地を取り戻すことができ、難民も元々いた土地に帰ることができるのだ」という、アラブ側の怨念信念を読み取ります。
厳密にいうと、パレスチナ問題は法的な側面だけなく、政治的・宗教的な面等も多分に含んでいます。したがって、قضية という単語が使われるのは、単にこの問題の複雑さや、解決に長い時間がかかることを表すためなのかもしれません。
なお、日本語を安易に直訳し المشكلة الفلسطينية と言うと、パレスチナが個別に抱えるなんらかの問題(ファタハとハマスの対立、汚職、名誉殺人、失業etc.)について話しているのだと受け取られる可能性があるため、避けたほうがいいでしょう。
英語メディアで「パレスチナ問題」の意味で最もよく使われるのは the Israeli-Palestinian conflict です。conflict の訳語は「صِراع 紛争」ですから、やや変則的です。
Israeli がPalestinian より前に来ていることは、英語圏では意識的又は無意識的にイスラエルが優先されていることの表れととることができるかもしれません。
一方、国連は、the question of Palestine / the Palestinian question というより中立的な(?)言い回しを好んで使います。「解決すべき問題」という側面を強調した表現であるように思います。(参考リンク)
以上