2017年12月12日

パレスチナ問題関係の用語・表現②「ユダヤ人関係の用語・表現」

この記事では、パレスチナ問題の背景を構成する、ユダヤ人関係の歴史的な事象や出来事をアラビア語でどう言うのか確認します。具体的には、ディアスポラ、反ユダヤ主義、ユダヤ人迫害、シオニズム(シオニスト)、ナチズム、ホロコーストを扱います。こういった関連のある用語や表現は一度に学習するのが効率的です。



最初に確認しておきますが、ユダヤ人(Jewish)は単数形が يَهُودِيّ、複数形が يَهُود です。يهوديون と言いたくなるところをこらえてスマートに يهود です。

なお、ここでは各事象・出来事の内容や意義については詳しく言及しません。


اَلشَّتَات
ディアスポラ/離散
Diaspora


「散り散りになる、離散する」という意味の1形動詞 شَتَّ の動名詞です。
ユダヤ・ディアスポラ(الشتات اليَهُودِيّ)だけでなく、離散した全ての人間集団について使うことができます。
例えば、
الشتات الفلسطيني で「パレスチナ・ディアスポラ」、
فلسطينيو الشتات とすれば「離散パレスチナ人(複数)」を意味することができます。
新しいところでは、الشتات السوري(シリア・ディアスポラ)などという表現も既に生まれています。


مُعَادَاة السَّامِيَّة
反ユダヤ主義
Antisemitism


語根√ع د و の3形動詞 عَادَى (~と敵対する、~を敵視する)の動名詞 معاداة と سَامِيّ (セム的な、セム族)に ة を付けて抽象概念化した سَامِيَّة (セム主義)のイダーファです。
كَرَاهِيَّة اليَهُود と言ってもほぼ同じ意味です。

「反ユダヤ主義的な(antisemitic)」と言いたい場合は、能動分詞を使って、مُعَادٍ لِلسَّامِيَّة となります。
ِمُعَادٍ ل (反〇〇、anti...)は非常に汎用性が高い表現です。
مُوَالٍ لِ (親〇〇、pro...)とセットで覚えましょう。

ユダヤ人への敵意、偏見、差別等を総称する用語ですが、なぜ英語と(それを翻訳したと推測される)アラビア語では「反セム主義」と言うのでしょうか。ご存知のとおり、アラビア語もセム系言語です。また、ヘブライ語を話さないユダヤ人もいます。この用語に関しては何か歴史的な経緯があるのだと推測されますが、長くなりそうなので深入りしません。ややこしいので日本語の用語も「反セム主義」にしてほしいものです。


اِضْطِهَاد اليَهُود
ユダヤ人迫害
the persecution of the Jews


「迫害(persecution)」の訳語は اضطهاد 以外考えにくいです。
√ض ه د の8形動名詞で、本来 ت であるはずのところが ض の音につられて ط に変化しているところが面白いです。
ロヒンギャ迫害(اضطهاد الروهينغا)など、パレスチナ問題以外の文脈でもよく出てきます。


الصَّهْيُونِيَّة
シオニズム
Zionism


シオニスト(Zionist)は صَهْيُونِيّ-صَهَايِنَة です。複数形は、職業を示す単語や一部の民族、国民等の複数形に見られる فَعَالِلَة の形をとっていることに注意です。有名どころから一例をあげると、أساتذة، دكاترة، مغاربة، فراعنة 等があります。ة で終わっていますが男性複数名詞として扱います。


النَّازِيَّة
ナチズム
Nazism


ちなみに「ファシズム(Fascism)」は、الفَاشِيَّة です。


الهولوكوست / مَحْرَقَة اليهود
ホロコースト
the Holocaust


自分で使う分には الهولوكوست だけ覚えておけば問題ありません。
しかし、アラビア語圏では مَحْرَقَة اليهود という表現もよく使われます。単に المحرقة と言うこともあります。
مَحْرَقَةには、「アル=マウリド・アル=アラビー(المورد العربي)」(初版2016年)によれば、「إِبَادَةٌ كَامِلَةٌ بِالإِحْرَاق(焼却による完全な殺戮)」という意味があります。遺体を大量に焼却する場面からインスピレーションを得たものと思われ、単に مَجْزَرَة や مَذْبَحَة(どちらも殺戮、虐殺という意味)を使うよりも、この出来事に特殊性を持たせる働きをしています。

以上