2018年1月25日

エジプト1月25日革命から7年―大統領は何を語ったか

本2018年1月25日は、2011年の「エジプト1月25日革命から7年の節目」及び1952年のエジプト共和国成立以来「66回目の警察記念日」にあたります。本記事では、これに関連する25日付大手政府系新聞アル=アハラームの一面記事を取り上げ、重要なアラビア語表現を拾いつつ内容をまとめていきます。

2018年1月25日付アハラーム紙一面記事のタイトルは以下の通りです。


エジプトはテロ及び悪と破壊の勢力の基盤とはならない
警察記念日に大統領(は言った):エジプト人が団結している限り、誰にも我々を傷つけることはできない
1月25日革命は、発展の実現に向けた戦いの原動力であった



第1段落では、昨24日にニューカイロの警察学校(أكاديمية الشرطة)で開催された式典に出席したスィースィ大統領が、殉職した警官らに対し共和国勲章(وِسَام الجمهورية)(※)を授与したこと等が述べられ、警察記念日トーンが全開となっています。

エジプトの勲章リスト(wikipedia)によれば、上から4番目に誉れ高い勲章のようです。


第2段落以降では、同式典における演説でスィースィ大統領が述べた内容が滔々と続きます。

まず最初に、「テロをはじめとするエジプトを覆う脅威と、国民が団結してそれに立ち向かっていくことの重要性」が強調されます。中でも、「中東地域におけるいくつかの国家の崩壊と、それらの国家を大きな真空(فَراغ كبير)のまま放置してしまったことが、テロ組織の台頭を招いてしまった」との指摘は目を引きました。専門家は以前から言及していましたが、エジプト大統領がこれを認定することの意義は少なからずあるのではないでしょうか。

【該当部分】
"وَقَالَ الرَّئِيسُ إِنَّ الْإِرْهَابَ الْأَسْوَدَ كَانَ أَهَمَّ وَأَكْبَرَ التَّحَدِّيَاتِ الَّتِى عَاثَتْ فِى الْمِنْطَقَةِ فَسَادًا وَإِفْسَادًا، بِفِعْلِ انْهِيَارِ بَعْضِ الدُّوَلِ وَتَرْكِهَا فَرَاغًا كَبِيرًا مَلَأَتْهُ الْجَمَاعَاتُ الْإِرْهَابِيَّةُ (...)"

大統領は以下述べた。「卑劣なテロは最も重要で大きな課題であった。いくつかの国家の崩壊と、それらを大きな真空のまま放置し、その真空を諸テロ組織が埋めたことで、中東地域は多大な害悪に見舞われた。」



次に、「エジプトは、国民の叡智に寄りつつ(مُسْتَنِدَةً إلى حَضارةِ شَعْبِها)ただ一人で(بِمُفْرَدِها)この苦い現実(الواقع المَرير)と対決してきた、エジプトがテロ及び悪と破壊の勢力の基盤となることはない」と自国の努力を賞賛しつつテロとの戦いを鼓舞しています。

次に、「1億人のエジプト国民の平和と安全のために犠牲となった殉職者たちとその家族」に言及し、「彼らの功績に見合う言葉や敬意の表し方はない(لَا تُوجَدُ كَلِمَاتٌ أَوْ تَكْرِيمٌ يَفِى بِحَقِّ الشُّهَدَاءِ)」と最大限の賛辞を贈ります。

なお、見出し写真でエジプト国旗を大統領に向けて掲げている男の子は、殉職者の息子とのことです。





そして最終段落で、ついに1月25日革命について言及されます。ここはこの記事の主目的でもあるので、全編訳出します。

وَقَالَ الرَّئِيسُ إِنَّ مَطَالِبَ ثَوْرَةِ ٢٥ يَنَايِرَ كَانَتْ نَبِيلَةً تَسْعَى لِنَيْلِ الْحُرِّيَّةِ وَالْكَرَامَةِ الْإِنْسَانِيَّةِ وَتَحْقِيقِ سُبُلِ الْعَيْشِ الْكَرِيمِ لِلْمُوَاطِنِ الْمِصْرِيِّ، وَمِنْ أَجْلِ تَحْقِيقِ هذِهِ الْمَطَالِبِ، سَالَتْ دِمَاءٌ مِصْرِيَّةٌ طَاهِرَةٌ لِشُهَدَاءَ أَبْرَارٍ، كَانَتْ هِىَ الدَّافِعَ وَالْحَافِزَ لَنَا لِنَخُوضَ مِنْ أَجْلِهَا مَعْرَكَةَ تَحْقِيقِ التَّنْمِيَةِ لِتُوَفِّرَ فِى مِصْرَ وَاقِعًا مُخْتَلِفًا وَجَدِيدًا يَلِيقُ بِهَا.

大統領は以下述べた。「1月25日革命の要求とは、自由と人間の尊厳の獲得及びエジプト国民の尊厳ある生活を実現するための崇高なものであった。これらの要求の実現に奉じた犠牲者たちから、エジプトの清き尊い血が流れた。1月25日革命は、エジプトに相応しい、これまでと違った新しい現実をもたらすための、発展の実現に向けた戦いに我々が突入するそのための原動力であった。」

革命を過去形(كان)を多用しながら語っているところが特徴的です。現在のエジプトは革命を原動力として出発ながらも、違った段階にあることを匂わせているように感じられます。しかし、1月25日革命の意義自体は(表向きだけの可能性もあるが)評価しているようです。

文法的な話をすると、一行目の كانت の目的語となっている نبيلة(崇高な)は形容詞ですので、これを非限定名詞のように扱い تسعى 以下の形容詞節を続けるのは無理があります。疑問に思いYoutubeで大統領の肉声を聞いてみると、この部分は正しくは以下のように述べていました。

"(...) ثورة 25 يناير، والتي كانت مطالبها النبيلة تسعى لنيل الحرية (...)"

(…)1月25日革命、その崇高な要求は自由の獲得を追い求めていた(…)

これならば納得です。やはり、大統領の演説ライターはこのような単純な文法ミスはしないようです。アハラームの記者は記事を短くするために、重要でない部分を省略したり入れ替えたりしているうちに、錯覚してしまったのでしょう。



【動詞 نَالَ - يَنَال の用法】
記事を読んでいて勉強になったのは動詞 نَالَ - يَنَال とその動名詞 نَيْل の使い方です。この動詞は、直接目的語をとり「~を獲得する」などという意味で使われるのがよくある用法です。記事中では、以下の形で出現しています。

نَيْل الْحُرِّيَّةِ وَالْكَرَامَةِ الْإِنْسَانِيَّةِ
自由と人間の尊厳の獲得

一方で、~نال من とすると、「~を害する、傷つける」という意味になります。記事中では、以下の形で出現しました。

لَنْ يُمْكِنَ لِأَحَدٍ النَّيْلُ مِنْ مِصْرَ مَادَامَ هُنَاكَ اصْطِفَافٌ وَطَنِيٌّ (...)
国民的団結がある限り、誰にもエジプトを傷つけることはできないだろう


以上