2018年1月14日

時事用語―"shithole"

【1月13日 AFP】ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が特定の国々を指して使用したとされる「shithole(シットホール=くその穴)」という言葉は、各方面から怒りの声を巻き起こしたのみならず、その翻訳方法をめぐって各国の報道関係者を悩ませた。

便所・不潔・ごみ…トランプ氏発言、世界はどう訳した?(朝日新聞)
トランプ米大統領がハイチや中米、アフリカ諸国を指して使ったと報道された単語「shithole(シットホール)」。直訳すれば「くその穴」という、公の場で使われるはずのない下品な言葉だ。それだけに、各国の報道機関とも引用や翻訳にあたっては四苦八苦したようだ。


朝日新聞記事によれば、「不潔な国々」(NHK)、「便所」(朝日新聞、時事通信)、「ひどい国々」(中国メディア)、「不潔な国々」「腐った国々」(ベトナムのメディア)、「ごみの穴」(オーストリアのメディア)、「肛門」(イタリアのメディア)、「物乞いの住み家」(韓国聯合ニュース)、「鳥も卵を産もうとしない国々」(台湾中央通信)など、様々な訳されかたをしているようです。

大統領の発言として適切かどうかという議論はあえて脇に置きますが、語学徒にとって、メディアに創造性の発揮を強いるこの種の発言は歓迎するところです。

本記事では、アラビア語メディアが「shithole」をどのように訳したのか確認します。結論を言うと、主要メディアは、「حُثالة」にほぼ収斂しています。また、ややマイナーな訳として「الأَوْكار القَذِرة」が散見されます。それぞれ見ていきます。


حُثالة(ごみ、廃棄物、クズ)


これらの記事は一例です。

حثالة の定義を、筆者が愛用するアラビア語―アラビア語辞典「アル=マウリド・アル=アラビー(المورد العربي)」(初版2016年)で確認します。

【ما يُرْمَى مِنْ فَضَلَاتٍ وَبَقَايَا وَقَاذُورَاتٍ】
廃棄物(ないし排泄物)、残存物、汚物などの捨てられるもの

つまり、「あらゆる種類の捨てられるもの」を指す単語と言えます(複数形なし)。日本語では「ごみ、廃棄物」などと訳さざるを得ませんが、これらの意味で一般的に使われるアラビア語単語は「قُمامة(ごみ)」や 「فضلات(廃棄物ないし排泄物)」です。それに対し حثالة は多くの場合、人間に対する罵倒語として使用されます。"هو حثالة" と言えば、ちょうど日本語で「あいつはクズだ」というような意味になります。"shithole"の蔑んだニュアンスを工夫して出そうとしているのがうかがわれる訳語です。

どのメディアが最初にこの訳語を使い始めたのか定かではありませんが、配信記事を通じてアラビア語メディアにも大きな影響を及ぼしているロイターではないかと想像します。

(ちなみに上の定義ではアラビア語文法の鬼門、「~ما...من」構文が使われています。「...するところの~」という意味になります。たとえば ما كَتَبَهُ مِنْ كُتُبٍ なら、「彼が書いたところの本」=「彼が書いた本」という意味になります。「本から彼が書いたもの」などと訳すと誤訳になります。)


الأَوْكار القَذِرة(不潔な巣窟)

!"عندما يصف ترامب دولا أفريقية وهايتي بـ"الأوكار القذرة(France24)
"صحيفة: ترامب يصف بلدانا أفريقية بـ"الأوكار القذرة(Sky News Arabia)

وَكْر-أَوْكار は「巣」という意味ですが、وكر لإرهابيين(テロリストの巣窟)のようにネガティブな意味でもよく使われます。قَذِر は「汚れた、不潔な」という意味の形容詞です。


もちろんSNS等では、もっと直接的な表現が使われていたりします。筆者が観測した限りで用例が多かったのは、حُفَر الخَراء(くその穴)で、まんまですね。気になる方はFBやTwitterで検索してみてください。

以上