2018年9月10日

小池都知事、エジプトの人気テレビ番組に登場③~小池都知事のアラビア語編~

 本記事は「小池都知事、エジプトの人気テレビ番組に登場①」の続きです。未読の方は①から読まれることをおすすめします。














 本記事では、小池都知事が番組中でアラビア語を話す部分を抜粋し、書き起こし及び和訳を行います。次回の記事で本シリーズは最終回にする予定です。





●小池都知事がアラビア語を話す部分
 小池氏は基本的に日本語で受答えしていますが、インタビューの一番最初と最後においてのみ、アラビア語で話している部分があります。小池都知事のアラビア語にはいくつか誤りがあったため、以下で指摘しますが、それは純粋に筆者と読者の学習のためです。最近、小池氏のアラビア語能力を揶揄するかのような記事が文春オンラインで公開されましたが、筆者はそのような論調には与しません。外国語として学習した言語を一線から退いて何十年も経ってから全盛期のレベルで話せる人などいません。小池都知事のアラビア語は確かにエジプトでの長い生活をうかがわせるものであり、エジプト人からの評価を上げこそすれ下げるものではないであろうことはここで明確にしておきます。

【7:40~8:14(インタビュー冒頭)】

(أحمد فايق): مِشْ عاوز أقول لحَضْرتِكْ إِنّ أنا عَندي مئات وآلاف رسائل من المَصريين بيقولو إِنّ هُمَّ فخورين بِيكِي وسعداء بِإِنِّكْ بَقِيتِي عُمْدِة مدينة زَيّ طوكيو، نتمنى أَنّ القاهرة تِوْصَلْ للتطوُّر اللي وصلِتْ لُهْ طوكيو حالًا. سؤالي الأول لِيكِي حَوَالِين عَلاقْتِكْ بمصر. إمتى كانت أول لحظة رِجْلِيكِي دَخَلِتْ فيها مصر وقصة التحاقِكْ بالدراسة بجَامْعَة القاهرة.

(يوريكو كويكي): شكرًا جزيلًا. أنا مَصْرِيَّة مِيَّة في المِيَّة.

(アフマド・ファーエク):私のもとには、あなたが東京のような都市の知事になったことを誇りに思い、喜ぶエジプト人からの何百何千ものメッセージが届いています。私たちは、現在東京が到達した発展にカイロが到達できることを望んでいます。私のあなたに対する第一の質問は、あなたとエジプトとの関係についてです。あなたがエジプトに足を踏み入れた最初の瞬間はいつでしょうか、またカイロ大学に入学した経緯を教えてください。

(小池都知事):ありがとうございます。私は100%エジプト人です。(以下、日本語で質問に答える)

(筆者コメント)
・مش عاوز أقول 以下は直訳すると「何百何千ものメッセージがあるとは言いたくない」となるが、これは数や程度を強調するときの特殊な言い方である。言いたいけれど、多すぎて/程度が大きすぎて言いたくない→とても多い、程度が大きいというわけである。
用例:مش عاوز أقول لك إن أنا بحبك قد إيه(どれだけあなたを愛しているか分からないほど愛している)

・حالًا は誤り。実際には何か頼まれごとをされたときなどに「今すぐやります」という意味で使う。「現在」という意味の副詞は حاليًا である。エジプト人の番組司会者ですら間違いは犯すもの。

・「100%エジプト人です」は、質問の文脈を完全に無視して言っていることから、用意していた発言だと思われる。事実に反するが、それくらいエジプトを愛しているということを伝えたかったのであろう。実際、この発言のエジプト側での受けは良く、地元メディアは東京都知事が100%エジプト人って言った!と記事にまでしている(リンク)。文脈関係なく、まず最初に自分が言いたいことを言うのはインタビューを受ける際の重要なテクニックである(やりすぎると質問を理解していないと思われるおそれがあるので注意)。


【36:04~36:41(インタビュー締め括り)】

(أحمد فايق): حاجة نتمنى إن إحنا نِوْصَلْ لَهَا في مصر إن شاء الله. السيدة حَضْرِةْ عُمْدِةْ طوكيو، خِرِّيجِةْ آداب القاهرة قسم الاجتماع، هل مَصْرْ تَسْتَطِيعْ؟

(يوريكو كويكي): طبعًا طبعًا. كثيرًا. وأيضًا أصل شَرِبْتُ مِيَاه من نهر النيل إن شاء الله في المستقبلة أرجع القاهرة، مدينة القاهرة.

(أحمد فايق): إن شاء الله. شكرًا يا فندم.

(アフマド・ファーエク):(廃棄物処理等に関する小池都知事の説明を受けて)エジプトで私たちが到達したいものです。インシャーアッラー。カイロ大学文学部社会学科卒であらせられる東京都知事殿、エジプトはできますでしょうか(番組名を文字っている)

(小池都知事):もちろん、もちろんです。とても。また、私はナイル川から水を飲みましたから、インシャーアッラー、私は、将来カイロに、カイロの街に戻ります。

(アフマド・ファーエク):インシャーアッラー。ありがとうございました。

(筆者コメント)
・حضرة だけで「~様」「~殿」という意味があるが、アフマド・ファーエクはこれにさらに السيدة 「~さん」「~様」を付加することにより、インタビューの最後に相応しい改まった雰囲気を醸している。和訳も対応させて最上級の尊敬語で訳した。

・كَثِيرًا のثをثで発音していること、そもそもエジプト方言ではكِتِيرということから、小池氏もここでフスハーっぽい話し方に切り替え、改まった雰囲気を出そうとしている。ただ、كثيرا(とても)を単体で言うのは、話法としてやや拙いことは否めない。

・أصل はエジプト方言において理由・原因を述べる際に使う接続詞で、やや高度な用法。最も多く使われる عَشَان/عَلَشَان とは違って、直後に人称代名詞が必要。ここでは أصلي または أصل أنا と言えば完璧だった。عشان/علشان 及び لَإِنّ と互換性があるが、أصل +人称代名詞の用法は、事実としての原因を強調するニュアンスがある。「事実として~だから」「確かに~だから」と訳すのもありか。

・اللي يشرب من النيل يرجع له تاني「ナイルから飲んだものはまた戻ってくる」という有名なことわざを踏まえた発言。エジプトに一度来た人は、なんらかの縁でまたエジプトに戻ってくるという意味。 أيضًا، شَرِبْتُ، مِياهという言い回しから、またここでフスハーに戻っていることが確認できる。なお、上にあげたことわざのアラビア語での言い回しはこれに限らず、微妙に異なるバリエーションがある。

・المُسْتَقْبَلَة と聞こえるが、正しくは ْالمُسْتَقْبَل。

・ يا فَنْدِمْ は、エジプト方言において、へりくだって相手を指すときに多用される表現。実生活では、ホテルの従業員や、UBERの運転手がよく客に対して使うのを聞く。

続く